Ruka170cm98F の 知恵ノート

医学部 再受験 理学療法士 などについての知恵ノート集

【17】理学療法士の業務について

理学療法士の業務について(病院における業務)
 
理学療法士です。
理学療法士(以下PT)はどんな仕事をするの?…といった質問がネット上でたまに見られます。そこで、このノートでPTの業務をまとめてみました。
項目別にかなり細かく記載しており、PT養成校への進学を考えている高校生や養成校の学生さんには不必要なものまで敢えて書いています。大まかに紫字だけを拾い上げ、必要に応じて解説をお読み下さい。
 
以下、PTの病院での業務を取り上げます。
通所リハビリ(デイケア)や老健(介護老人保健施設)での業務は、似ている部分もあれば違う部分もあります。うち、リハビリに関しては身体機能(あるいは精神機能)の向上を図ったり社会復帰を促したりする点で特に大きく変わるものではありません。ただし、リハビリ以外の業務はかなり様相が異なります。デイケアやデイサービスのリハビリ以外の業務は以下をご参照下さい。
あくまでも、わたしのかつての勤務先の状況を示したものです。職場により違いがあることを予めお含みおき下さい。
 
PTの業務を大まかに以下の2つに分けました。
(1)患者さんに対して直接行うもの
(2)患者さんに対して直接行うもの以外の業務
 
以下、順に紹介していきます。
 
*****
 
(1)患者さんに対して直接行うもの
 
 
① リハビリ
 
PTの主たる業務は何と言ってもリハビリ(理学療法)の実施です。通常、勤務時間のおよそ60~80%を占めるものです。
 

pt イメージ2.jpg

発症直後から1~3週間後ぐらいまで、患者さんの全身管理が必要な時期のことを急性期と呼んでいます。急性期リハビリの例を日本PT協会の動画で紹介します。
 
急性期に続き、症状が安定に向かっている時期を回復期と言います。回復期リハビリの例を以下の動画で紹介します。
 
回復期では、退院後の社会復帰も視野に入れたリハビリも合わせて実施していきます。入院中の患者さんであっても、病棟の外(屋外)でリハビリを行うことがあるわけです。
無論、退院後にこういったリハビリを外来通院や訪問リハビリで実施されることはあります。
 

pt イメージ3.png

具体的にどのようなリハビリを行うのか、細かく挙げ出すとキリがありませんので、ここでは上記のみ紹介させていただきます。関連別ノート理学療法士作業療法士の違いについてにも、両者の仕事内容を比較しながらいくつか具体の記載があります。
インターネット検索で「理学療法士」と打ち込むと、記事や動画が多数出てきますから、それらもご参照下さい。
 
ところで、病院によっては、リハビリ室から病棟に内線電話をすると、看護師さんや介護士さんが患者さんを車椅子等で連れてきてくれることがあります。
わたしのかつての職場では、病室からリハビリ室までの車椅子移動も生活動作の一部と考え、PTや作業療法士(OT)が病室のベッドを出るところからリハビリを開始していました。このため、看護師や介護士がリハビリ室まで連れてくることはありませんでした。
また、リハビリ中に尿便意をもよおし、トイレに行きたいと言われれば、それらの排泄動作も生活動作の訓練の一部だと考えて、時間はかかりますがPTやOTが介助に入り、病棟看護師や介護士に任せることはしませんでした。
この辺は職場の方針によります。
 
 
② 患者説明
 
現状の身体機能はどのぐらいのレベルなのか、リハビリの進捗状況はどうなっているのか、書面(総合リハビリテーション実施計画書:後述)を示しながら、患者さんやその家族に説明をします。これは毎月1回行います(注1)。説明後は患者さん、または家族から書面にサインをいただきます
わたしの病院では、回復期リハビリ病棟の患者さんの場合は、予めスケジュールが組まれている医師の病状説明に同席し、そこでリハビリについてはPTやOTから説明していました。
急性期病棟の患者さんの場合は、本人か家族に対し、直接1対1で説明することが多かったです。
 
注1:ただし、このリハビリはどういう目的でやっているのか、進捗状況はどうなっているのか、…等は月1回に限らず、必要に応じて適宜説明するように心がけた方が信頼関係構築の点でベターです。
 
また、退院が近い患者さんには、書面(退院時リハビリテーション指導書)を示しながら退院後に注意すべき点を説明したり、自宅で行って欲しい自主訓練についての説明をしたりします。これも、説明後は患者さんから書面にサインをいただきます
 
これら患者説明は重要な仕事ですが、勤務時間全体から見れば、占める時間は短時間なものです。書類はもちろん事前に作成しておきます。書類作成も仕事です。
 
 
③ 家屋調査の実施
 
この患者さんが退院後、自宅生活をはたして満足に送れるだろうか?…と身体の機能的・能力的に予後(=今後の病状についての見通し)がハッキリしない場面によく遭遇します。
そこで、家屋調査を実施します。これは、自宅の寝室やトイレなど生活動線を実際に患者さんに歩いてもらい、その状況から、今後どんなリハビリを行いどんな身体機能・能力を高める必要があるかどんな福祉機器・福祉用具が必要か家屋改修は必要か、…等を検討しようとするものです。生活空間の構造や寸法を測ったり写真を撮ったりして記録し、家屋の見取り図を作成します。
もちろん、事前に家屋調査の趣旨を患者さんと家族に説明して、同意を得てから行うものです。
 
*階段の段差やトイレ便器の高さを計測
pt 家屋調査2.jpgpt 家屋調査.jpg
家屋改修とは、例えば必要な箇所に手すりを設置したり床の段差を解消したりすることで、麻痺などの障害が残っていても自宅での生活をし易くすることが目的です
簡単に改修可能なことも多いですが、かなり大掛かりになることもあり、場合によってはスロープや車いす用の昇降機を設置することもあります。
ただし、借家だと改修できないことも多いです(そういう場合はそういう場合なりにどうするかの知恵はあります)。
 
具体的には、病院の車(軽自動車等)に患者さんを乗せ(注2)、大抵はPTとOTの2人が同行して患者さん宅を訪ねます。患者さんに実際に玄関から上がってもらい、居間、寝室、トイレ、風呂、…等を移動してもらって動作能力や生活動線のチェックを行います。また、段差・便器・ソファー・ベッド等の高さや廊下の幅を測定するなどして、生活空間を把握します。
自宅滞在時間はだいたい1時間ぐらいです。
 
注2:車を運転するなら普通自動車運転免許(AT限定で可)が必要になるので、入職前に取得しておいた方がいいです。
pt 外出訓練.jpg
終わったら、早めに家屋調査実施報告書を作成します。この報告書は介護保険を何の用途で使ったらよいか(福祉機器の購入(またはレンタル)とか家屋改修とか)をケアマネージャーCM)が検討してケアプランを作成する際の資料になります。
 
家屋調査を伴わないで2回目以降自宅に患者さんを連れて行って自宅生活での身体機能・能力のチェックすることもあります。その場合は外出訓練と呼ぶことが多いです。
自宅以外の屋外でリハビリを行うものも外出訓練と呼んでいます。
 
家屋調査は、自宅への退院(在宅復帰)をスムーズに行うために実施されるものです。退院時に福祉機器や家屋改修が必要だという判断に至った時はその費用の多くを介護保険でカバーできます(介護保険の測定については(2)で後述します)。
 
職場によっては、家屋調査や外出訓練を必要に応じてどんどん実施していきましょう…と実施を推奨していることもありますが、わたし自身は毎年1~3回ぐらいの実施でした。
 
*****
 
(2)患者さんに対して直接行うもの以外の業務
 
圧倒的に頻度の多いものは①書類作成です。次いで②③がよくあり、その他は不定期に行う程度です。
 
 
① 書類作成
 
PTとして働いていると、意外と書類作成業務が多いことに気付きます。
 
カルテ(毎日)
総合リハビリテーション実施計画書
退院時リハビリテーション指導書
家屋調査実施報告書
リハビリテーション添書リハビリサマリー
リハビリテーション理由書リハビリコメント)→で述べます
測定で述べます
職場内の申し送り書(随時)
 
カルテ記載は必須業務です。実施したリハビリの記録は、基本的にその日のうちに行います。数日分貯めておいて、後日まとめて記載することは認められません。
新卒PTだと慣れておらず、記載にかなり時間がかかることがあります。最近では電子カルテを導入している病院が多く、最初しばらくは少し戸惑うと思います。
 
既出の総合リハビリテーション実施計画書退院時リハビリテーション指導書等の書類も作成します。一緒に担当しているOTや言語聴覚士(ST)と協力して作成します。
家屋調査に出かけたら、家屋調査実施報告書を作成して記録として残します。
 
いずれにせよ、記録をしっかり残しておくことは非常に重要な業務になります。
 
*総合リハビリテーション実施計画書の例 (A4サイズ2枚分)

pt 実施計画書.jpg

患者さんが他の病院へ転院する場合、あるいは施設へ入所する場合、転院先や入所先の担当者のためにリハビリテーション添書リハビリサマリー)を作成して、医師が送付する診療情報提供書(紹介状)に添付します。リハビリの進捗状況、現病歴などを記載して、次の病院や施設の担当者がそれまでのリハビリの状況が把握できるようにするものです。
 
また、以下は公の書類ではありませんが、他の職員のために申し送り書を作成しておかなければならないことがあります。
最近は年365日リハビリを実施する病院が多くなりましたが、職員は365日勤務ではありません。そのため、自分の公休日に他のPTが患者さんのリハビリを代行することになります。そこで、患者さんの状態やどんなリハビリをやってもらうかを簡単にまとめて代行するPTが困らないようにしておくメモ書きが必要ですが、それが申し送りです。
その他、②カンファレンス③回診に参加する代表者のために、患者さんの状態やリハビリ進捗状況を簡単にまとめて申し送っておくこともします。
 
 
② カンファレンス(conference)への参加
 
他職種と情報交換や意見交換を行う目的で行われる一種のミーティングで症例検討会議のことです。医師(主治医)を中心として、看護師、PT、OT、STなどが集まって治療方針を話し合い、情報共有を行います。
pt カンファレンス.jpg
これとは別に、わたしの職場の回復期リハビリ病棟では、病棟担当看護師、担当PT、担当OT、担当ST、介護士が集まって行う病棟リハビリカンファレンスというものがありました。これは職場によりけりですが…。
 
カンファレンスには必要に応じて医療ソーシャルワーカーMSW)やケアマネージャーCM)が加わることもあります。また、退院先が老人ホームや老健(介護老人保健施設)などの施設の場合、その施設の関係者がカンファレンスに合わせて来院し、参加することもあります。
 
なお、医師が中心となるカンファレンスですが、脳外科医神経内科もいますし、整形外科医もいます。回復期リハビリ病棟にはリハビリ病棟の主治医もいます。このため、リハビリに関係する科の医師の数だけカンファレンスが行われることもあります(ただし、こういったカンファレンスを行わない医師もいます)。
複数の医師がいますから、わたしの職場では何らかのカンファレンスが毎日1つ程度ありました。
カンファレンスの内容は、代表者がカルテに簡潔に記載して記録として残します。
 
自分は今回はカンファレンスに参加しないが、自分が担当している患者さんが検討対象に挙がっている場合、リハビリの進捗状況を簡潔にまとめた申し送り書を作成して、事前にカンファレンス担当者に渡しておきます。
情報伝達が重要な業務になります。
 
 
③ 医師回診への参加
 
医師が回診する際(注3)には看護師がついてまわる他に、リハビリからも代表者が1~2人参加することがあります。院長回診ではリハビリ職のトップの人がついてまわることが多いようです。院長以外にもリハビリとの関連が深い脳外科医の回診、整形外科医の回診、回復期リハビリ病棟の病棟主治医の回診など医師の回診がたくさんあることがあります。
どの回診も週1回程度ですが、複数の医師がいますから、カンファレンスと同様わたしの職場では何らかの回診が1日に1つ程度ありました。
 
注3:大学病院の教授が何十人もの部下を引き連れ、廊下いっぱいに広がって歩き回るような、テレビドラマで見るような回診をイメージしないで下さい。あれは入院患者さんに迷惑です。主治医回診では多くてもせいぜい10人ぐらいまでです。 
なお、上記は定期的に(週1ぐらいで)スタッフが合同で回診するケースの話です。
全くの余談話になりますが、実際のところ主治医は毎日一人で担当患者さんを回診し、常に状態を把握するように努めているものです。
 

pt 医師回診.jpg

参加する代表役は順番にまわって来ることが多いようです。参加しない人は先に書いた通り、参加する代表者のために申し送りを書いておくのがマナーです。
カンファレンスと回診が引き続いて行われることもあります。
 
 
④ レセプトチェック
 
これは職場によって違うかもしれません。
レセプトとは患者さんが受けたリハビリについての医療報酬の明細書のことです(厳密には、レセプトはリハビリに限ったものではありません)。わたしの職場では月末になると電子カルテ上に実施したリハビリやその他の項目が正しく反映されているか、請求漏れがないかどうかのチェックを各人で行っていました。正しいことを確認した後、その月の末日にまとめて医事課に報告していました。
 
医療報酬を請求しても、関係機関からその内容の一部または全部が却下されることがたまにあります(わたしの職場では減点…と呼んでいました)(注4)。つまり、例えば3時間のリハビリを実施して医療報酬を請求しても、2時間分しかその必要性を認めない…などとし、リハビリの点数を一方的に切り捨ててくることがあるのです。
そんな場合は後日、「…の理由でリハビリの必要性を認める」と記載したリハビリテーション理由書リハビリコメント)なる書類を作成し、実施したリハビリが認めてもらえるようPTやOTのコメントと主治医のコメントを医事課が取りまとめて再審査請求をすることになります。
分かり易く言えば、病院の儲けが減らないようにするための自衛手段です。
つまり、たった1回のリハビリでもそれが減点対象になれば、減点を取り返すため書類作成業務がひとつ余分に増えることになるのです。
 
リハビリは医療点数が切り捨てられ易い部門のようで、減点により収益を減らした医療機関は多いはずです。一時期は本当にひどい減点が行われており、わたしの職場ではそれに対し理由書作成等による減点対策を必死になって行っていました。
以前は常識的に行われていた「廃用症候群防止のための関節可動域訓練」は、今ではほとんど切り捨てられます(脳梗塞などの病名が付けば別ですが)。
 
注4:都道府県により、自治体により、程度に若干の差異はあるようです。
普段から規定の上限いっぱいまでリハビリを実施している医療施設はマークされ易く、減点を喰らい易い…という話を聞いたこともあります。
 
 
⑤ 学生指導
 
PT養成校から学生が実習に来ることがあります。その、実習生の教育係をすることです(バイザーとかスーパーバイザー(SV)と呼ばれます)。普通は経験3年以上のPTの中から教育係を命じられます。
学生指導にはリハビリの実地指導の他、デイリーノートやレポートなどの提出物の内容チェック等もあります。
 
 
⑥ 義肢・装具の製作で相談
 
 
医師から義肢・装具の処方が出されることがあります。
義肢や装具は義肢装具士が製作します。義肢装具士さんは外部の業者さんです。病院では大抵2~3社の業者と提携していて、各業者は週1~2回の割合で定期的に病院にやって来ます。
医師が義肢・装具の処方を出すといっても(注5)、医師が義肢や装具の設計上の形状や寸法を事細かく指定することは、リハビリ科専門医(注6)でもない限りまずあり得ません。処方に関して不明な点があれば処方を出した医師に相談しますが、だいたいこんな感じのものを作って下さい…と言う程度です。
そこで、具体的にどんな形状のものを作るのか、寸法はどうするか、…等は患者さんの状態を診て義肢装具士さんや先輩PTと相談しながら決めることになるのが実情です(リハビリ医がいれば別ですが)。
新人PTでは恐らく全く解らないと思いますので、いろいろ教えてもらいながら学んでいくことになります。 
 
注5:患者さんの身体状況から、装具処方の必要性が高いと考えられるような場合でも、医師の中にはそういったことに疎いことも多く、PTやOTの側から医師に装具処方を促さなければならないようなケースも一般病院では多々あります。
注6:全国的には “リハビリ科専門医” の数は非常に少なく、整形外科医や内科医がリハビリ病棟主治医を担当しているケースが多いです。リハビリドクター以外の医師でリハビリのことをよく理解している医師は非常に少ないのが実情で、リハビリ内容が解っているいる医師は皆無です。
 
*下肢装具の例
pt 短下肢装具.jpgpt 短下肢装具の例.jpgpt 義肢装具.jpg
⑦ 測 定
 
主に身体障害者手帳介護保険等の申請者に対して行う身体検査で、関節可動域、日常生活動作など、現状の身体機能や動作能力を調べて書類を作成します。最終的には医師が判子を押して証明する書類となるものですから、本来なら医師がすべき仕事なのでしょうが、身体機能や動作能力の項目については大抵リハビリ部門にその役がまわってきます。
頻繁にある仕事ではありませんが、たまにあります。
 
介護保険の測定はそんなに面倒でもありませんが、身体障害者手帳の測定は項目が細かく面倒くさいもので、わたしの職場ではいつもPTやOTが2人がかりで行っていました。
大抵どこの職場でも、身体障害者手帳の測定は大変なので、2人がかりだと思います。 
 
*身障者手帳測定の検査用紙の一部
pt 身障者手帳の測定.jpg
介護保険の測定について。
入院患者さんの場合、退院後に恐らく介護保険が必要になるだろう…と考えられる患者さんに対し、介護認定が退院前までに下りるよう事前に段取りよく行っておくべき業務になります。介護認定までの具体的な流れは本書の趣旨から外れますので省略しますが、測定自体は退院予定日の概ね3~4週間ぐらい前に行うことになります。
 
 
⑧ その他
 
始業前、終業後の清掃、消毒、後片付け等。終業後の片付けは助手さんが業務の合間を見てやってくれていることが多いですが、手が空いたら手伝いましょう。
 
⑨ 勉 強
 
一番最後に書きましたが、かなり重要です。
厳密には業務とは違いますが、疾患に関するもの、評価法に関するもの、リハビリ手技に関するもの、CT・MRI等の画像、介護保険制度、…等々、仕事をしながらでも学んでいくべきことはいろいろあります。
業務時間内・時間外に関わらず、常に知識や技術を身に付けて研鑚していくことは非常に大切なことです。
 
 
以上、PTが現場で具体的にどんな業務をやっているのかを述べてみました。
ご参考になれば幸いです。
 
理学療法士の業務について 終わり
 
 
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