【19】理学療法士と作業療法士の違いについて
名称は似ていますが、実際に似ている部分もあれば違う部分もあります。
以下、相違点をいくつかの観点から述べてみたいと思います。
理学療法士(以下PT)は主に基本動作の獲得を担当します。
基本動作とは、例えば、起き上がる、立ち上がる、歩く、といった、生活を営む上での基本となる動作のことです。主として大きな動作を受け持つことが多いです。
作業療法士(以下OT)は主に応用動作の獲得を担当します。
応用動作とは、例えば、手を使って字を書く、食事をする、といった、ある目的を遂行するための動作のことをいいます。どちらかと言えば、より生活動作に近いでしょう。手の細かい動作を受け持つことが多いです。
*ただし、これだけの説明では十分ではありません。
*知恵袋を検索すると過去質問と回答が多数出てきます。以下にいくつか挙げてみます。
PTは脚のリハビリを行い、OTは手のリハビリを行う…と言われることがたまにあります。大雑把にだいたいそうとも言えるのですが、PTが脚を行い、OTが手を行うと決まっているわけではありませんし、必ずしもそういった捉え方が正しいとは言えません。
② PTとOTの専門性の違いをもう少し詳しく言うと…
*身体(精神)に障害のある人、または障害の発生が予測される人…とは
理学療法士(PT)
PTは
身体に障害のある人(または障害の発生が予想される人)に対し
座る、立つ、歩くなどの基本動作能力の回復や維持、障害の悪化の防止を
目的として
運動療法や物理療法(電気や温熱の力で回復を促す治療法)などを用いて
自立した日常生活が送れるよう支援する
リハビリの専門職です。
関節可動域の拡大、痛みの軽減、筋力強化、麻痺の回復など、
運動機能に直接働きかける治療や、
動作の練習、歩行の練習などの能力向上を目指す治療を行い、
動作改善を図って日常生活の自立を目指すものです。
*日本理学療法士協会HPから引用改編
注:図には赤丸が3つ付けられていますが、赤丸の付いてない疾患も対象です。
注:図[右上]は着替え(更衣動作)の様子ですが、その練習は主にOTが指導します。
また、医師の処方に基づいてPTは呼吸機能の維持改善のための呼吸リハビリや心機能の維持改善のための心臓リハビリも実施します。
作業療法士(OT)
OTは
身体または精神に障害のある人(または障害の発生が予想される人)に対し
その主体的な生活の獲得を図るため
諸機能の維持、回復、および開発を促す作業活動を用いて
治療、指導、および自立した日常生活が送れるよう支援する
リハビリの専門職です。
運動機能、精神機能などの基本能力、食事やトイレなど、
日常生活活動を遂行するための応用能力、
地域活動に参加したり就労就学するための社会生活適応能力の向上を図るものです。
*日本作業療法士協会HPから引用改編
注:図[左上]上肢訓練や[中央上]トイレ動作の指導は、実際の臨床場面ではPTが行うこともあります。
注:図[中央上]の手すり設置の提案等はPTが行うこともあります。
OTは身体障害だけではなく、精神障害に対してもアプローチします。そのため、精神科の病院(病棟)で活躍するOTもいます。
紹介ビデオ等
以下に動画を引用します。ご覧下さい。
以下に分かり易く解説しているサイトを引用します。
*ただし、わたしはこのサイトの関係者ではありません。
つまり、PTは基本的な機能や動作能力獲得のためのリハビリを行います。
ただ、実際の日常場面では、手が動く、歩ける…といったことだけでは生活していくことができません。
そこで、OTでは手を使って〇〇をする(例えば、字を書く、着替える、料理をする、洗濯物を干す、等)…といった応用的な動作の獲得を目指します。
③ PTが行うリハビリとOTが行うリハビリの内容がカブることはあるのか?
上記①②に両者の専門性の違いを述べましたが、やっているリハビリのメニューがカブってくることはあります。
例えば、主に急性期(発症直後から概ね1~3週間後までの期間)では、手足の関節が固くならないようにPTやOTが彼らの手を使って(注1) 患者さんの関節を動かし、関節可動域の維持、拡大を図ることがあります。さらに、ベッド上で寝たままの状態が続くと筋力や自律神経の働きなど全身の機能の低下が進む(注2)ため、早期から身体を起こすこと(注3)が非常に大切になってきます。
注1:徒手(としゅ)で…といいます。
注2:廃用症候群(はいようしょうこうぐん)…といいます。
注3:離床(りしょう)、早期離床…等といいます。
また、上記とは視点がちょっと違いますが、PTもOTも資格の区別なく内容的に同じリハビリを行っていることもあります。
例えば、病院を退院後、自宅で行われる訪問リハビリでは、主に日常生活動作の練習や社会参加活動の練習を行いますが、ここでは特にPT、OTの区別なく、その人に必要なリハビリは何かを考え、実施しています。
PTだから…、OTだから…、という役割の違いや担当の違いはあまりありませんし、両者の間に明確な線引きをするようなことも普通はしません。
訪問リハビリは、PTもOTも行っています。どちらであっても、必要なリハビリをそれなりに実施できることが求められます。
つまり、国家資格の違いに関わらず、実際はどちらがやってもよいようなカブる領域もある…ということです。
PTもOTも同じリハビリを行う職種ですから、カブる部分があっても特に不思議なことではありません。しかし、介護福祉施設等では両者ともに同じようなリハビリをやっている実情から、PTやOTの専門性って一体何なんだ…という声が一部の人たちから上がることはあります。
ただ、施設等で働くPTやOTの立場では、両者の視点でやっています…というのが言い分であり、PTがPTの視点でしか診ないなんていうのはおかしい…という考えを持ってリハビリを行っています。
*当記事作成に当たり、画像をいくつか拝借しました。お礼申し上げます。
④ 養成校で学ぶ内容の相違
養成校によってはPT科しかない学校、またはOT科しかない学校もあります。
両方の学科があっても完全に校舎が別になっていることもあります。しかし、実際のところ、1年生のうちはPT科の学生もOT科の学生も合同で講義を受けるものが多いです。教養科目の心理学、社会福祉学、医学英語、保健体育、…等は同じですし、医学概論、解剖学、生理学、病理学、内科学、神経内科学、脳神経外科学、整形外科学、成育医療学、精神医学、…等も学ぶ内容は同じですから講義は合同になると思います。
PTは、OTのように精神科病院で常勤で働くことはあまり多くありませんが、精神医学の講義はPT科でもあります。
*基礎科目 (PT・OT共通、わたしの出身校の例:国立3年制専門学校:2000年頃)
*専門基礎科目と専門科目(左がPT、右がOT、わたしの出身校の例:国立3年制専門学校)
上記の例はあくまでも一例です。
2年生以降はほぼ科別の授業です。
実習は、病院や介護老人保健施設等の1日見学のようなものだと一緒に行くことはありますが、臨床実習では当然それぞれ科別になります。
⑤ PTやOTはどのぐらいの数がいるのか
やや古いデータですが、2014年現在、PTの国家試験の累積合格者数は119,990人で、OTは70,675人いるようです(海外免許を書き換えた人も含む)。ただ、現役を引退した人もいますから全ての人が現職ではありませんが、統計上OTの数はPTの58.9%(注)いるということになります。
また、養成校の定員数で見ると、OT(6,732)はPT(13,425)の50.1%です。
毎年新たに誕生するPTの数がだいたい8,000~10,000人に対して、OTの数は約半分の4,000~5,000人ぐらいです。
注:2015年の合格者を加えると、PTが129,942人、OTが74,800人。OTはPTの57.6%。
病院に在籍しているPTとOTの割合は病院により様々ですが、だいたいPT:OTが10:5ぐらいです。中にはほぼ10:10の病院(病棟)もありますし(回復期ではこのぐらいの割合のことが多い)、10:3ぐらいのこともあります(急性期ではこのぐらいの割合が多い)。
精神科では専らOTであり、PTはいても週1~2回の非常勤というパターンが多いです(最近では、精神科の単科病院でも2~3人のPTが常勤しているケースが増えてきているようです)。
一方、整形外科では(OTの需要もありますが)PTが圧倒的に多いです。
なお、どちらが将来性があるか?…と質問される人がたまにいますが、個人的にはあまり大きく変わらないと思います。
OTはPTに比べ、臨床現場での有資格者数が少なく、トータルの需要もPTよりは少ないかもしれませんが、養成校の定員も元々少ないため、学生1人当たりの率で考えるとあまり大きな差はないように思います。
ただ、現職の人で、OTはまだいいが、PTは多くて就職戦線はちょっと苦しいんじゃないか…と言われる人もいます。医療施設によっては、PTの数は間に合っているから今年はPTを募集せず、OTとST(言語聴覚士)のみ募集した…という中規模病院が実際にあることはわたしも知っておりますし、OTの需要拡大を示唆する意見も複数の科長クラスの人たちから聞いています。
しかし、これは医療施設によりケースバイケースですし、年度によっても違うかもしれません。
将来性でどちらになるか決めようとする人がいますが、それよりも実際に病院のリハビリ室等を見学して、自分に合いそうな方を選ぶのがよいと思いますし、そうすべきです。
⑥ その他
給料については、同一施設で働く限り、差はないと考えてもらって差し支えありません(もちろん、施設が違えば施設間の金額の差は当然ありますが)。
PTとOTの両方の資格を取ろうと思ったら、いずれか一方を取ってから養成校の他方の科の2年次に編入して卒業すれば国家試験の受験が可能です。国内にはダブルライセンスを持つ人もいて、両者の視点から患者さんを診たいということで取得を目指されるらしいです。
ただ、両方の資格を持っていても医療点数は一度に一方でしか算定できませんし、給料が上がるわけではありません。時間と費用が余分にかかります。
両者の視点を持つのは良いことだと思いますが、資格取得についてはいずれか一方の資格で十分だと考えます。
以上、ご参考になれば幸いです。
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